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《THE UNIVERSE 月曜日》文字起こしvol.3:松尾潔×久保田利伸対談(2008年3月31日放送)vol.8 【27時のテディ・ライリー最終回】

KC「それでは、このコーナーを久保田さんと一緒に迎えることになりました。「27時のテディ・ライリー」の時間です! これまで色んな曲をかけてきましたが、テディ・ライリーといえばやっぱりガイ、ということで、最後はやっぱり本人のリーダーグループの作品で締めくくろうかなと思います」
久「(テディのリーダーグループといえば)やっぱブラック・ストリートよりもガイかね?」
KC「もちろんブラック・ストリートも大好きなんですけども、やっぱガイだろ!みたいなところは少しありますね」
久「ぼくもそうですね。まぁガイは聴いたね! だからあまりにもガイというか、テディ・ライリーが作ったニュー・ジャック・スウィングをみんながやるから、当たり前のものになっちゃって……ある意味チープなような感じになってしまって。だから、ヘソ曲げようかなとも思ったんだけど、去年久々に見に行ったりしたらさ(2007年9月テディ・ライリー来日公演)、やっぱ違うね」
KC「本家という言葉で説明するのはあまり好きじゃないんですけど、この人に関しては使っていいと思うんですよね」
久「ほんとだね。しかも、会って話すといいヤツなんだよね。とても時代を強引に作っていった人には思えないくらい。逆に、だからなのかもね、地に足ついた感じで」
KC「彼も最終的に音楽好きのオヤジ、というところに着地しようとしてる感じですよね。とにかく、トークボックスを咥えてる時がいちばん幸せなんでしょうね、この人」
久「彼の場合、歌も時々歌うけど、歌がほとんどうまくないと」
KC「うまくなくても味があればいいんですけど、それも危い感じですよね(笑)」
久「あの肌の色だったら、もうちょっとうまくてもいいのに!(笑) でも、彼はその分他の才能があって、だから、トークボックスも冴えてくるんだろうし。その後、ディバンテ(・デグレイト)とかそれ系でトークボックスやる人はいるけど、やっぱりロジャー(・トラウトマン)とテディ・ライリーしかいなかったもんね」
KC「この2人はパイオニア感がすごかったですよね」
久「今話してて、なんで「27時のテディ・ライリー」か、やっとわかったよ。なんで他の人じゃないんだろうと思ったけど、色んな意味でテディ・ライリーの話はできるんだね」
KC「もちろん、ヒットメーカーということでいえばベイビー・フェイス、マエストロということでいえばクインシー・ジョーンズとか、色々いるんですけど、何か、構ってやりたいような、人としての歪な感じも込みで、この人の曲が好きなんだなと思って。あの人、フィナンシャルな意味でも破綻してるんですよね」
久「そうなの?」
KC「今、ヴァージニアのフューチャー・スタジオも売りに出てますよ。後でこっそり値段もお教えしますけども(笑)」
久「でもあそこ、飛行機の騒音が激しいんだよね(笑)」
KC「結構音拾っちゃうんですよね(笑)。あそこの隣の高校にはネプチューンズのファレル(・ウィリアムス)がいたんですよね」
久「テディ・ライリーが高校生の頃のファレルを連れてきたんだよねえ……」
KC「それだけでもすごいことですけども。チャド(・ヒューゴ)もインターンで来てたんですよね」
久「そうなんだってね。僕も行きましたよフューチャースタジオ。高校には行ってないけど(笑)」
KC「学食行っちゃったりしてね(笑)」
久「あんまりうまくないだろうね(笑)。脂っけが多そう。フィッシュアンドチップスとか……」
KC「チキンとかねえ……じゃあ、曲行きましょうか」
久「うん、テディ・ライリーの話してたら(話が)尽きないからね」
KC「このまま番組が終わってしまう(笑)。それでは、1988年ガイ衝撃のデビューアルバム(『ガイ』)から聴いていただきましょう。「ピース・オブ・マイ・ラブ」」

♪Guy / Piece Of My Love

Guy

Guy


Piece Of My Love


KC「まったくその、計算とか抑制とかが無縁のボーカルですよね。最高だなあ」
久「サイコーだね。テディ・ライリーがアーロン・ホールを選んだ、という事がガイを特別な存在にしたんだと思うよ」
KC「テディ・ライリーの音とアーロン・ホールのボーカルの2点で9割方成功と言っていいのではないかと思いますね」
久「いくらテディ・ライリーが同じ時代に色んな人をプロデュースしてたくさん曲を作っていても、やっぱりガイが印象に(残る)。彼があの時代のグル―ヴをバコンと作っちゃったじゃない。だけど、もう一つ広まっていった理由としては、この歌が決してテディ・ライリーが歌うんじゃなくてアーロンが歌っていたこと」
KC「普遍性のある、ソウルフルな歌ですよね」
久「最初スティービー・ワンダーかと思ったもの。でもスティービーにしては強引かなーと思って。ギャップ・バンドのチャーリー・ウィルソンかとも思ったけど、そんなに何曲もゲストに入るかなあと思って。そしたらアーロン・ホールだったわけですよ」
KC「種明かしするように次の2ndアルバムではギャップ・バンドの「アーニング・フォー・ユア・ラブ」をカバーしてみせて、自分のルーツはここにあり、と。それからまたさらに、つい最近数年前ですけどもチャーリー・ウィルソンがガイのレッツ・チルをカバーしてアンサーしたりとかね。こういう風に連なっていく感じ、アメリカのR&Bシーンがうらやましい……日本も久保田さんがMISIAとやってらっしゃるのを見ると、遅ればせながら日本もどんどんつながっていく感じになっていってるのかなと思いますね」
久「つながってますよ。つながっていく音楽じゃないですか、ソウル/R&Bという伝統も含めてね。他のジャンルよりも明らかに一緒に作るとかコラボレーションが多いし、当たり前のものだしね。デュエットっていうのがソウル/R&Bの伝統だしさ。誰かがプロデュースして、そのプロデューサーがつながっていくと。そしてシンガーたちがまたつながっていくと。こういうのが伝統になっている音楽ですからね」
KC「僕もそれも自覚して飲み会の時は、色んな人を呼んでいるんですけども……ただ寂しがり屋だって事もあるんだけど(笑)」
久「色んな人を呼んで、僕も呼んでもらって。深い時間に呼ばれると結構色んな事が起こるけどね(笑)」
KC「(笑)」
久「気をつけないと(笑)」
KC「ガイの88年春から夏にかけて、アメリカのラジオ局でガンガンにボビー・ブラウンやニュー・エディションがヤング・アーバン戦略の時に流されていて、それを久保田さんはLAで聴いていたというのが羨ましい話なんですよね」
久「ちょうど『サッチ・ア・ファンキー・サング!』をレコーディングしてる時期で、LAにいたんだよね」
KC「『サッチ・ア・ファンキー・サング!』は(19)88年の9月30日に発売されています」
久「とすると、ちょうどの時期だね」
KC「制作佳境ですね」
久「LAは車社会だから、聴かざるをえないんだよ、スタジオを行ったり来たりで。あの時はKJLH、(ザ・)ビート(KKBT)なんかを聴いていたよ」
KC「歌ものはKJLH強いですからね」
久「3曲に1曲はテディ・ライリー関連の曲、みたいな。それをアメリカで聴いてたというのが……」
KC「匂い付きでね」
久「わりとこう、ニューヨーク作りの音なんだけど、俺にとっては、聴いていた環境もあるのかもしれないけど、昼間のLAのPCH(パシフィック・コースト・ハイウェイ)っていう海岸沿いの道に合ったりしますね。もしかしてこれが生っぽい音で、テディ・ライリーがもうちょっとニュー・ジャック・スウィングのノリを匂いを強く作っていたら合わなかったかもしれない」
KC「テディはワシントンDCのゴーゴー(GO-GO)とか、ああいう東海岸の黒人文化の影響が強いんだけど、テディっていうバイアスをかけた途端に、西海岸でも通じる音楽になって、もっと言えばワールドワイドな広がりをね、獲得できたのかなあと思います。チャック・ブラウンなんてLAの人はあんまり知らないですからね」
久「まあ、あの人はローカル色のすごく強い神様だよね」
KC「テディのビートの翻訳者としての凄味が88年ですでに出ていたと。《誰にでもわかる、日本語で書かれたアメリカの本》、みたいな」
久「時代をつないでる役割でもあるよね。あの人は古いスウィートなソウルも好きだから、当然こういう音楽になっていくんだけど、同時に時代や世代はヒップホップだから。ちょうどそこの間を無理なくつないでくれたんだよね」
KC「この時代より前から活躍していた、例えばルーサー・ヴァンドロスやフレディー・ジャクソンとかそういった人たちは、この後もかろうじて歌う事ができたんだけど、若手がデビューする時は、肩パットの入ったジャケットのスーツで歌う事は許されなくなってしまいましたね、ガイ以降は」
久「ガイまでだね。でも肩パットの入ったスーツでガイと一緒に雑誌の表紙を飾った事あるよ(笑)。申し合わせたわけじゃないんだけど、全員ダブルで(笑)」
KC「(笑)。あの頃は恥ずかしい写真ってけっこうありますよね(笑)」
久「みんな、時代時代の中で一杯一杯でやってたんだろうね(笑)」
KC「90年に初来日したアレクサンダー・オニールとブリブリの赤紫のダブルのジャケットでイェイと写ってる写真なんかも僕持ってますよ(笑)」
久「キヨシとアレックス、コンビ名としていいね(笑)」
KC「全然いいと思わない!(笑) 今日は「午前3時のテディ・ライリー」、久保田さんの思い入れたっぷりという感じで拡大版でお送りしました」

Such A Funky Thang!

Such A Funky Thang!

(続く。※半分をまた1/4以下に抜粋しています)