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ブロック6

KC「ハイ、えー、大滝詠一さんをゲストにお呼びしたとき以来の、少なめ少なめの選曲ペースで……お届けしております」
吉「まだ5曲目だったんですね……」
KC「フフフ。スモーキー・ロビンソンで「クワイエットストーム」でした。彼のサードアルバムに収録されております」
吉「ソロ名義なんだよね、これ。いい曲です」
KC「この曲もソウルファンの間では有名ですけど、<クワイエットストーム>っていうのはラジオの番組の形態/フォーマット/曲調とか……限りなく<スロージャム>っていう言葉に近い意味で使われてますよね」
吉「そうそう。要は、ソウルのスロウバラードと若干のジャズ/フュージョン系の曲をミックスさせてかける、夜向けのラジオフォーマットなんだよね……こういうのはこういうので好きですね」
KC「こういうフォーマットを作ったのは、ワシントンD.C.のハーバードのインターンの学生、メルビン・リンゼイさんって聞いたんですが……ずいぶん若い人が作ったんですね。若者にしては老成してますけど……」
吉「そうですね、21歳のころ大学放送局のエリアだけで流れる番組のピンチヒッターとして出たときに、このフォーマットを作ったんですね。これは最初ワシントンD.C.だけで流行ってたんだけども、徐々に評判を呼んで、80年代にはニューヨークのWBLSとかサンフランシスコのKBLXとかが、<クワイエットストーム>っていうのを夜の深い時間から放送するようになったんですよね」
KC「ぼくはWBLSのボーン・ハーパーがやってた『クワイエットストーム』を聴いていて」
吉「渋い声なんですよね」
KC「それで、クルセイダーズジョー・サンプルの「in my world stream(?)」がテーマ曲だったですがインストで、<クワイエットストーム>っていうのが、必ずしも歌ものではないっていう認識はあるんですよね」
吉「そうでしたね」
KC「吉岡さんにとって、<これはボーカル以上に歌心があるな>っていうインストルメンタルヒーローって誰ですか?」
吉「え〜……それこそ、今おっしゃったジョー・サンプルなんて大っ好きなんですよ」
KC「リリカルなんですよね」
吉「あのタッチが最高なんですよね」
KC「ちょっと南部の感じも入ってたりして」
吉「彼自体はニューオリンズっぽいのも弾くし、メロディーズオブラブっぽいの弾くし……両方できて、すごく繊細なタッチなところが大好きですね」
KC「インタビューもされてるんですよね?」
吉「はい。ぼくの車の助手席にも乗りましたしね……フフフ」
KC「フフフ。ダニー・レイの車に乗ったりジョー・サンプルを車に乗せたり……すごいお方ですね吉岡さんは!」
吉「車に乗ってるとき『レインボー・シーカー』のジャケットの話をしていて、あれは自分が飛行機に乗ってたらあるとき虹が見えたんだって。それがすごいキレイでアルバムのタイトルにしたらしいんですよね……感動的ですよね」
KC「そんな逸話があったんですか……それにしても感動の多い人生ですね。フフフフフ」
吉「フフフフフ。で、ジョー・サンプルが来日したとき1曲リクエストを出したんですよ。「スターダスト」を」
KC「ほぉ」
吉「ちょうどジョージ・デュークジョー・サンプルがふたりだけでライブをするので。で、ジョー・サンプルのバージョンのスターダストが聴きたくて、それを言ったら「もう何十年とやってなくて、譜面がないよ」って言われたんですよ。それでぼくは翌日ナットキングコールとかロッド・スチュアートとかが演った「スターダスト」を7バージョン入れたCD−Rを届けたんだよ」
KC「ハハハハハ。それもうリクエストじゃなくてオーダーですね……」
吉「それで2,3日したら、ジョー・サンプルがステージで「こちらのジェントルマンがぼくに「スターダスト」を演れといって、2,30年ぶりに演ることにしたよ」って言ったの。あれは超感動したなぁ……」
KC「そんときにブルーノートに居合わせた人は吉岡さんのおかげで「スターダスト」を聴くことが出来たと」
吉「フフフフフ。そうですね」
KC「自分の無邪気なお願いがちゃんとアーティストに伝わるっていうのは、ご人徳だと思いますよ」
吉「そんとき、最初別の曲2フレーズくらい弾いてたんだけど、「スターダスト」の譜面を取り出して、弾き始めたんですよ」
KC「………おぉ!ってことは……!!」
吉「譜面に起こしたってことですよね」
KC「すごいなぁ……寝ないで起こしたんでしょうねぇ。吉岡さんのその温和な笑顔の向こうに「演ってくれるんだろうな?」っていう脅迫が……」
吉「フフフフフ。いやいやいや、ぼくはいつも「Would you please」ですよ!」
KC「吉岡さんは商売とかじゃなくて、音楽に対する純粋な愛情でやってらっしゃるから、ジョー・サンプルも心の中の柔らかいとこをキュッと刺激されて演っちゃうんでしょうね」


KC「そろそろ終わりのお時間です。いつも吉岡さんとは会って話してますけども、今日ははじめて聞くお話も多かったですね。なのでぜひまた、日を改めておこしくださいますか」
吉「まだまだ話したりないことがある気がするんだよなぁ……」


KC「それでは、《おやすみユニバース》なんですが……これまた吉岡さんの思い出の1曲ということで、ご紹介いただけますか?」
吉「ハイ、さきほどから話していた『ドン・トレイシーショー』のエンディングテーマ曲です。リズムヘリテージの「スウィムフロムスワット」。ドン・トレイシーは『レイター、ラバーズ!』って言うと、この曲がかかって、番組が終わる」
KC「フランキー・クロッカーでいうと「ムーディーズムーズオブラブ(?)」ですね」
吉「ですね」
KC「それでは、《THE UNIVERSE 月曜日》、お相手は松尾潔と」
吉「吉岡正晴でした」
KC「おやすみなさい」
吉「おやすみなさい」