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 《THE UNIVERSE 月曜日》文字起こしvol.1:松尾潔×黒沢薫対談前編

  • オープニング  ―――5人目の男。

松尾潔(以下、KC*1)「こんばんは!松尾潔です。まったりとしたソウルとゆるめのトークでお届けしております、《THE UNIVERSE》月曜日、今週は番組開始以来5人目のゲストをお招きしております。ゴスペラーズ、そして最近ではエナメル・ブラザーズでもおなじみ、黒沢薫さんです!」
黒沢薫(以下、黒)「こんばんは!!」
KC「こんばんは!」
黒「ゲスト、5人目なんですか?」
KC「5人目よ〜。言っとくけど最年少だからね。」
黒「えっ、他誰が出たの?」
KC「えっとね……最初が山下達郎さん」
黒「はい」
KC「で〜、大瀧詠一さん」
黒「はい」
KC「鈴木雅之さん」
黒「フフフ……はい」
KC「DJ honda」
黒「はぁ」
KC「黒沢薫さん」
黒「あぁ」
KC「はじめての30代でございます!」
黒「他、御大ばっかりじゃないですか!」
KC「フフフフフ。40代50代ばっかり」
黒「……ぼくで大丈夫なんですか?」
KC「まー、あのー、この番組のゲストはね、それなりに話す内容をもった方、ということでお選びしているわけですよ」
黒「ありがとうございます!」
KC「フフフフフ……上から目線で申し訳ない」
黒「いえいえ、ぼくも下から目線で。松尾さんとはよくしゃべってるけど、2時間とか平気でしゃべってるよね?」
KC「2時間で終わったためしがない!」
黒「ないよね」
KC「その時点で、無試験入学みたいなもんだから!」
黒「フフフ……なんか、先生目線ですよね」
KC「いやいやいや。そんなこと言うなよ〜嫌味かよ〜」

  • 歌うこと、聴くこと ―――<ソウル>の準備として。

黒「でも、松尾さんはぼくにとって先生みたいなもんだから。ほら、R&Bとかソウルとか聴いてて、最初のうちは詳しくないから、日本盤買ってライナーノーツを見るでしょ?」
KC「うんうん」
黒「そうすると、ライターはだいたい松尾さんか、吉岡(正晴)さんだったのよ。松尾さんはアルバムによって文体がぜんぜん変わるんだよね」
KC「ぼくは「このアーティストにはこの文体だろ!」みたいなのはあったんだけど……的外れなことも多かった?」
黒「いやいや、そんなことないよ。だってそれを真に受けてた方だもん」
KC「へ〜」
黒「……そうやってぼくらも知識を蓄えてきたわけですよ!」
KC「けどさ、ぼくからすると、あくまでも<聴く楽しみ>っていうことでそういう文章を書いてたりしたわけで、黒沢くんみたいにそれを実際に歌うことに使ったりしてる人がいるっていうのは、すごくうれしいことだよね」
黒「うーん、だから、ロックの人とか、シンガーソングライターの人は、あんまりそういうのを気にしないのかもしれないね」
KC「あー、そうね」
黒「ぼくらは、ポップスであったり、ソウルを歌う上で、どうしても知識が要るというか……」
KC「いいソウル謡いっていうのはさ、いいソウル聴きであることが、まず求められるってとこあるよね」
黒「そうなんですよ。だから、引き出しがいっぱいないとダメなんですよね。ある人みたいに歌いたいときに、知識がまったくないと、なかなか難しいでしょ」
KC「そうそうそう。またそのー、ルーツを感じさせない歌ってつまんないもんね。くりかえしの鑑賞にたえられないというか」
黒「そうなんだよ、たとえばソウル謡いが好きで歌っている日本人が好きで歌ってる人と、ソウル歌いが好きでそこから「この人もともと何聴いてたのかな?」って掘り返していくと、ちょっと違うじゃない、やっぱり!」
KC「最初っからアツいね〜」
黒「ちょっと違うんですよ、みなさん!」

KC「黒沢さんは、日本を代表するソウルシンガーなのはもちろんなんですが、音楽界を代表するカレー好きでもありますよね」
黒「あのー、先日新しい本が出まして」
KC「なんと、もう2冊目だよね?」
黒「『ぽんカレーGOLD』(2007年)っていう……ダジャレですよ!……フフフ」
KC「黒沢くんはやっぱり自分が好きなことに対してすごく忠実だし、すごく貪欲だよね。1冊目の『ぽんカレー』(2005年)だってそうだし、しかも、誰に頼まれたわけでもないのに、メンバーの中で唯一、ソロアルバム(『Love Anthem』。2005年発表)作ったじゃん」
黒「そう…………誰にも頼まれてないんですよね(小声で)」
KC「それはいいんだよ。〆切がないのに自分で何か作れるっていうのは、ホントに好きな人ですよ」
黒「そうですかね……?」
KC「ほとんどの奴は納期がないと曲書かないもん」
黒「あー、でも、意外と、ゴスペラーズに関して言えば、納期ありで作ってたりするんだよ。ほら、やっぱり<ゴスペラーズ>っていうものに触れてる時間が長いから、逆に、「今日はスタジオ入って曲作ります」って(外的な制限を課すことによって)作っていくことの方が多くて」
KC「うんうん。それは特別な<場所>なんですよね」
黒「ゴスペラーズに関しては、イマジネーションで「こういう曲が最高だ!」っていう風に、だまってひとりで10曲くらい作ったこととか、ないのよ。ぼくは、もうずーっと、<ゴスペラーズ>だから……」
KC「おもしろいもんだね〜。やっぱりご自分のなかでキチッとすみ分け出来てるんだね」
黒「そうなんだよ。だから、ソロとかカレーの方が、勝手にやってるっていうか」
KC「フフフフフ。ま、カレーは勝手にやってもらわないと困るけどね」

ぽんカレーGOLD

ぽんカレーGOLD

  • パラ読み!『ぽんカレーGOLD』  ―――黒沢薫がみたインド。

KC「(『ぽんカレーGOLD』をめくりながら)現地写真、やっぱり迫力あるね〜」
黒「すごいですよ。何もないとこはほんとに何もないですから」
KC「(写真を指差して)これ、インドのなかではどのエリアになってるの?」
黒「これはですね、南インドのね、チェンナイの、もともとマドラスっていった場所で」
KC「マドラスチェックの発祥の地ね」
黒「で、現地の音楽もいちおうチェックしてきたんですけど、今、ハウスっぽい四つ打ちが流行ってて、ボトムとかかっこいいのよ。かっこいいけど上にのってるのが(いわゆる)インド音楽になっちゃうの……フフフ……途中で女性ボーカルが入ってきたりして」
KC「あ〜、向こうはデュエットものは多いよね」
黒「だから、ボトムだけが世界レベルというか、イマドキのポップスって感じで」
KC「インドの音楽っていうのは、大体ブラックミュージックと相性がすごくいいっていう風に言われてるよね。ここ数年ほら、イギリスに住んでるインド系の人たちがさ、けっこういい音作ってるじゃない。<Rishi Rich>とか<Panjabi MC>とか……」
黒「そうだねー。JAY-Zがフィーチャーされたりとか」
KC「フフフ……そういう意味でもカレーとつながるわけだ」
黒「フフフ。ちょっとだけね」
KC「そんな、『ぽんカレーGOLD』、帯にこう書いてありますよ。<カレーが嫌いっていう人とはさ、ぶっちゃけ、つきあえなくない?オレは無理だな>」
黒「これはインタビューっていうか、対談の一節を編集の人が抜き出して。フフフ……そこが一番可笑しかったんでしょうね」
KC「フフフ。パンチラインですよ」
黒「そういうこと」
KC「<今までの私はニューヨークの寿司バーでカリフォルニア巻きを食べながら日本の江戸前寿司を語っていたようなもの>……って、よくこんな言葉出てくるね!」
黒「ハハハハハ。でもほんとね、そう思ったんですよ」
KC「物書きだね〜」
黒「いやいやいや。ぼくはあのー、前書きは、一番気合入れましたから」

Project

Project

Album

Album

  • あの頃は若かった  ―――邂逅としての遭遇。

KC「なんで黒沢薫松尾潔の交友関係をもっているのか、わかんない人はわかんないと思うんで、出会いのきっかけみたいなものをお聞きしたいと思うんですけども」
黒「そうですね、松尾さんがぼくらのプロデューサーだったことないもんね?」
KC「そうなんだよね、よく誤解をうけるんだよ。なんとなく仲よさそうっていうことだけ伝わってて。強いていえば、『smooth summer』にゴスペラーズの曲をお借りしたぐらいで」
黒「たしか、最初は松尾さんのラジオ番組(bayfm、『Marive Urban Jam Station』。9:00〜16:00の生放送。92〜97年(?))で会ったんだよね。それで、うちのメンバーの安岡が、1日休みがあったから前日に安岡が1日ガーッと肌焼いて真っ黒にして現れて、松尾さんの番組におれたち5人で出たときに、「安岡優です」って言ったとき、「君、ベタだな〜」って言ったのをすごい覚えてる」
KC「フフフ……初対面の一言って大切だね」
黒「そのときに、あぁ、楽しい人なんだなって思って。で、その後『二枚目。』(2ndアルバム。96年9月発表)の宣伝用パンフレットに寄稿してくれたんだよね。だってその仕事のあと、ベイビーフェイスにぼくらのCD(『二枚目。』)渡してくれたりしたじゃん(このエピソードは松尾潔によるベイビーフェイス『THE DAY』ライナーノーツに詳しい)」
KC「今度会うんだよ〜みたいな話をしたら、頼まれたんだっけ。『THE DAY』(5thアルバム。96年11月発表)のリリースパーティがロンドンであって(1996年9月19日)、インタビューのとき渡したんだよね。でも、ゴスペラーズって、彼の目の前で歌ったこともあるんじゃなかった?」
黒「デビューするときに、ベイビーフェイスの前で歌う機会があるから、やってみろって言われて。「I'll Make Love To You」(BOYZ??MENの2nd『??戮房閟拭?94年発表)をアカペラアレンジしてあったんで、それを歌ったんですよ。で、ベイビーフェイスに、いつかプロデュースしてもらえますか?って言ったら……ベイビーフェイスはすごいニコニコしながらね、「遠くで見守ってるよ」って言われて!やさしい人だよね……もっと無下に断ることもできただろうに……で、そんときにいっしょに見に来てくれたのが吉岡正晴さんだったのよ。「日本でこういう人たちいないから、うれしいな。がんばってね」って言われて。うれしかったな。そっからまた吉岡さんにお会いするまで6年くらいかかるんですけど……」
KC「今では濃ゆいお付き合いをしてますよね。ぼくを交えて3人で飲んだりすることもあるくらいで」
黒「そうですね」
KC「あの人ジンジャーエールばっかりだけどね〜」
黒「フフフフフ……よくジンジャーエールであんな遅くまで居られるよね」
KC「ジンジャーエール<だから>、あのお年でも遅くまで起きてられるのかもよ?」
黒「フフフ……でね、松尾さんとは3枚目4枚目くらいのころちょくちょく会ってたんだけども」
KC「何回か連絡くれたよね。「Rケリーの新譜(『R.』5thアルバム。98年発表)聴きました?」とかね。メンバーの中では黒沢くんだけが連絡くれて」
黒「えっ、みんな電話してないんですか!?」
KC「そうそう、だからみんな今のR&Bとかあんま好きじゃないのかなって思った記憶がある」
黒「村上(てつや)はよく聴いてましたけどね」
KC「酒井(雄二)くんとかも聴いてた気がするんだけど……まぁ、性格的に黒沢くんが社交的だったのかな?」
黒「どうなんだろう?フフフフフ……わりと素直な方なんで」

SMOOTH SUMMER

SMOOTH SUMMER

二枚目

二枚目

The Day

The Day

II

II

R

R

黒「でも、まぁ、その後しばらく会わなくて、R&Bのイベントで再会したんだよね」
KC「嶋野百恵(当時、松尾潔プロデュース)がライブにでるっていうんで、そこに行ったら、ゴスペラーズもいて」
黒「98年はぼくたち、カバー曲はR&B/Soulをやってたんだけど、すごいポップスに寄ってる時期(当時、4thアルバム『Vol.4』を発表)で……」
KC「そうだよね。ぼくは先に『Down To Street』(<file records>から発売されたインディーズ盤)を聴いてて黒っぽいイメージがあったから、「こういう方向に行く人だっけ?」と思って。それで……そのときはけっこう忌憚なく言ったんだよね」
黒「そうそう。久しぶりに会って、R&Bの話をしてたときに、「R&Bとか好きだったら、もっとR&Bっぽいのやっちゃえばいいじゃん」って言われて……」
KC「ほんと、言いっぱなしだよね……(肩を落として)」
黒「でも、それである意味ゴスペラーズの方向性が決まったんだよ。あの後、もうポップスはいいやって」
KC「もう好きなことやろうってこと?」
黒「そう。あんまり聴いてくれる人のことを思って、噛み砕いた音楽やってるのが一番失礼だから、自分たちの好きなことを思いっきりやった方がいいんじゃないの?っていう話になったのよ。松尾さんとの会話が直接のきっかけではなかったにしても、ちょうど、そういう流れだった」
KC「聴いてる音楽とやる音楽の誤差を無くそう、みたいな」
黒「そうそうそう。それで、もう、いいじゃん、っていうことでね。で、その当時、DRU HILLというグループがいて、彼らの活動に後押してもらったかたちで……JODECI以降の、いわゆる不良系ボーカルグループなんですけど」
KC「シスコ(DRU HILLのメンバー)はK-CIフォロワーのひとりだったよね」
黒「そうそう。で、ビデオクリップとかを見ると、シスコの身体能力が、スゴイ。ひとりだけズバ抜けてるんですよね。踊れるK-CIって感じだった」
KC「んー、敏捷な男って感じだったよね」
黒「K-CIはソウルっぽい動きはできたけど、いわゆるダンスはできなかったから。まぁ、とりあえず、聴いてもらいましょう」


♪DRU HILL「How deep is your love」
ゴスペラーズ「永遠に」


KC「黒沢薫に影響を与えた、というか、背中を押してくれたDRU HILLの「How deep is your love」(『Enter the Dru』所収。1998年発表)、そして、開いたR&Bの扉の向こうにあった曲、ということでゴスペラーズ「永遠に」(2000年発表)、2曲続けてお聴きいただきました」
黒「DRU HILLには唱法も影響受けたね」
KC「<唱法>って言うところが音楽史をきっちり受けてた感じがするね〜」
黒「ぼくなんてボーカルスタイルのコレクターみたいなもんなんですよ、ほとんど」
KC「ボーカルスタイルっていうのはさ、何もないところからは生まれないじゃん。やっぱりひとつひとつ丁寧に聴いていって、ピンセットで自分の中に移植したものを、編んでいく感じだよね」
黒「そうなんですよね。ぼくらは日本で生まれて、いわゆるゴスペルというものがないでしょ?」
KC「うん」
黒「ボーカルスタイル、という点で黒人が強いのは、まずゴスペルというものがあって、教会で浴びるように歌を聴くじゃないですか。そこから入って、ラジオ局も日本に比べてFM局の数が段違いで、いわゆるブラックミュージックだけでもチャンネルがいくつもあって、基礎工事の部分から違うわけじゃないですか」
KC「日本にいると、自覚的に聴き集めていかなきゃいけないもんね」
黒「だから、それこそ歌い方のコレクターのようにね、やってきたんですよ。ぼくはハイテナーで、澄んだ、優しい感じの歌声だったんだけど、DRU HILLとかJODECIを聴いて、DRU HILL〜JODECI歌いを続けていたら、逆に、自分の持ち味であるテナー方向でヒットが出たわけですよ」
KC「まぁ、結果としてさ、<日本のもの>っていうのをきっちり打ち出しながら、アメリカの現行のR&Bに影響を受けたものっていうものができちゃったよね?」
黒「そうなんですよね〜」
KC「これは奇跡的な1曲でね、ぼくも当時、物書きから制作の方にすでに移行していたんだけど、やっぱりぼくにとって、多重コーラスっていうのは未知の領域でさ、「永遠に」の和声のビシッと揃ったとき瞬間、音響的なことも含めて、新しい景色を見たような感じがしたよ。もう……感服っていう感じでさ。それで、ぼくが2003年に作ったコンピレーション(『smooth summer』。2003年発表)にお借りしたんだよね」
黒「最初、2曲録ったんですよ。1曲はモロ向こうのR&Bに寄った曲と、もう1曲がこの「永遠に」。この日本的な、メロディのある曲を、もしかしたらあちらの方にプロデュースしてもらったらおもしろいんじゃないの?みたいなアイディアもあって……でも、やっぱりジャム&ルイスは使えないわけじゃん。だから、若手でいいプロデューサーにお願いしようってことで、村上が一生懸命、小っちゃいライナーノーツの小っちゃいクレジットをみて、<ヌーンタイム>の中で誰かにしようっていう結論になって。で、アトランタに行って、今をときめくブライアン・マイケル・コックスに編曲してもらったんだよね」
KC「ケミストリーが起ったね(しみじみと)」
黒「これを作ったことで、というか、タイミングが同時だったんですよ。ゴスペラーズがゆっくりブレイクしていくのと、ブライアン・マイケル・コックスがブレイクしていったりだとか、(一緒に製作した)パトリックスミスもブレイクしていったりとか……運が良かったですね」
KC「運ももちろんだけど、実力が手繰り寄せたってとこもあったんじゃないの?」
黒「いやいやいや。ぼくらよりぜんぜんうまい人たちでも、表に出て来れない人もぜったいいるわけじゃないですか。だから、ぼくらはめぐりあわせが良かったと思ってるんです。それこそその、松尾さんの「DRU HILLみたいのやっちゃいなよ」からはじまってるわけよ。あの時「いいじゃない?ゴスペラーズこのまんまで〜」って言われてたら、納得して、この感じでずっと行こうよって、行っちゃってたかもしれないんですよ」
KC「こっちはなんの深い意図もなかったんだけどね……」
黒「それでも、ぼくらの中の泉に石を投げ込んだってことですよ。だからゴスペラーズは、そういう運はあると思いますよ」
KC「そう言ってくれるとね……これは喜んでいいのかな?」

baby baby,Service/ヒカリ

baby baby,Service/ヒカリ

Vol.4

Vol.4

down to street

down to street

Enter the Dru

Enter the Dru

永遠に

永遠に

黒「ぼくはねー、マーヴィン・ゲイに対する評価が上がったのは、ここ4,5年なんですよ」
KC「何かきっかけあったの?」
黒「うーん、やっぱり、歌い手として、少しずつマシになっていくとですね、この人のすごさがだんだんわかってくるという。ぼくは、もともとスティーヴィーワンダーフリークだったんですよ」
KC「そういうイメージあるよね。「リボン・イン・ザ・スカイ」(スティービー・ワンダーStevie Wonder's Original Musiquarium』所収。1982年発表)とか、ライブでよく歌ってるじゃない」
黒「唱法なんかも、スティーヴィーライクな唱法を自認してたんですよ。けれども、マーヴィン・ゲイのプロデューサーとしてもコンポーザーとしてもすばらしいんですけども、しなやかな表現力!それが一番出てるのは、実は、自分で作ってない『I want you』(1982年発表)だと思うんですよ」
KC「リオン・ウェアがすでに完成させていたと言われてるアルバムだよね」
黒「今のR&Bのミニマムなサウンドはここからきてると、ぼくは勝手思ってるんですけど……」
KC「まぁ、オーケストレイションひとつ取ってもね、どこから切り取っても、今の音楽とちゃんと地続きっていう、そういうアルバムだよねぇ」
黒「で、それと地続きのアレンジメントをしたくて、ゴスペラーズで1曲、そういう感じのやつを作ったんですよ」
KC「オマージュってやつですね」
黒「そう、ちょうど、この話には裏もあって、このマーヴィン・ゲイの「I want you」を聴いてるときに、4,5年前なんですけど、そのとき行ってたカレー屋さんがありまして、そのカレー屋さんの名前を曲につけたんです」
KC「ハッハッハッハッハ。ここまで丁寧に話してくれてるのに、読めなかったな〜」
黒「「アンジュナ」(『Dressed Up To The Night』所収。2004年発表)という曲なんですが……2曲続けて聴けばなんとなくわかると思います」


マーヴィン・ゲイ「ALL THE WAY 'ROUND」
ゴスペラーズアンジュナ


KC「この2曲、四半世紀以上の隔たりがあるんですけども、流れるムードはいっしょですね〜。松本圭司さんのラムゼイ・ルイスばりの、ジャズフレイバーのソウルピアノがすばらしい!」
黒「その、ジャジーなんだけどソウルフルで、っていうような所と、コーラススタイルがマーヴィン・ゲイのしきつめるような、シルキーなコーラススタイルで、ってことで、やってみたんですよ」
KC「ゴスペラーズの<日本におけるボーカルグループ>っていう見え方からすると、本来の持ち味とは違う、新しいことにチャレンジしてるよね。グループっていうよりは、ソロシンガーのアルバムで、セッションシンガーを集めてやるやり方だよね」
黒「そうなんですよ。グループは普通、ああいう作り方ではやらないんですよ。それを、あえてグループでやってみたかったというのが、この曲で意図したことですね」
KC「曲調が大人めで静かなんだけど、実は果敢な挑戦をしているってことに、番組をお聴きのみなさんにはお気づきいただけたかと思いますよ」
黒「そうですね、そうだとうれしいですね」

Original Musiquarium

Original Musiquarium

I WANT YOU

I WANT YOU

Dressed up to the Nines (CCCD)

Dressed up to the Nines (CCCD)

KC「そういえば、年末のジョニー・ギルのライブ後にやった飲み会、あれはおもしろいメンバーだったね」
黒「すごかったですねぇ。松尾さん、吉岡(正晴)さん、(山下)達郎さんがいて、久保田(利伸)さんが来たんですよね」
KC「しかも、ライブ後だから、みんなけっこうアガッてんのよ。しかもJB亡くなった直後みたいなこともあって」
黒「ソウル的に何かある、みたいな感じで」
KC「あのときの達郎さんと久保田さんのお話は、横で聞いてておもしろかったな。久保田さんが前々から「達郎さんとソウルの話したことねぇなー」ってお話しされてたから、引き合わせて。久保田さんが達郎さんに「歌がいちばんうまいシンガーは誰ですか?」って聞いてたのよ。そしたら達郎さん「そりゃJBでしょ!」って即答してたんだよねぇ」
黒「そう言われると、JB聴くときもちょっと真剣になりますよね……そういえば、達郎さんが「JBなんてツッパリしか聴かない」って言ってたじゃない?」
KC「昔よく色んなとこでそういう発言してらっしゃったね」
黒「そのとき「おれと近田春夫しかいなかった」って言ってたじゃない?それを聞いた吉岡先生が「あ、ぼくも居ました!」って言ってたじゃない……あっ、長髪は3人居たんだ!っていうね」
KC「日本における、ブラックミュージックに影響を受けて日本語でポップスを作ってきた人たちの、『プロジェクトX』的な検証番組みたいな飲み会だったね」
黒「自分が歌う前から憧れてた人たちが目の前に勢ぞろいしていて……ぼくは、ほんとに感動しました!」
KC「みんな楽しかったってそれぞれに違う表現で言ってたよ」

(詳しくは、吉岡さんの記事を参照)

ジェームス・ブラウン ザ・ベストコレクション

ジェームス・ブラウン ザ・ベストコレクション

TREASURES

TREASURES

THE BADDEST

THE BADDEST

Let's Get the Mood Right

Let's Get the Mood Right

ベスト1991→1994。→

ベスト1991→1994。→


(2007年8月27日放送から抜粋。後編に続く)

*1:松尾潔の愛称。<松尾“KC”潔>という表記でよく使用される。語源はキキチガイ。プロレスラーでいう<“HBK”ショーン・マイケルズ>みたいな感じ。