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《THE UNIVERSE 月曜日》文字起こしvol.2:松尾潔×吉岡正晴対談(2007年8月27日放送)vol.4

KC「今週は、音楽評論家・吉岡正晴さんをゲストにお迎えしております」
吉「ブラックミュージックという、かなり狭いとこに特化しておりますが……」
KC「ハッハッハッハッハ。(ラジオを)お聴きになってる方で、吉岡さんの容姿をご存じない方もいらっしゃると思うんですが、こんなに黒人音楽一筋の人っていうのが、どんな……」
吉「アフロヘアで」
KC「日焼けサロンで真っ黒に焼いてるみたいな人かと思われるかもしれませんけども、吉岡さんはどちらかと言いますと、色白で」
吉「ハイ」
KC「さらさらヘアで」
吉「ハイ」
KC「今テニスやってきましたって感じですよね。まぁ、僕もそうなんですけど、黒人音楽とか黒人文化は好きなんですが、自分自身が黒人の服装とかは似合わないのわかってますから、あんまりファッションを真似たりはしないんですよね」
吉「僕はぜんっぜんないですね、そういうのは」
KC「それは昔からですか?」
吉「昔から。ファッションの方には行かなかったですね……だから、僕のまわりは黒人っぽい人ばっかりですから」
KC「鈴木雅之さんをはじめとして、吉岡さんのまわりには東京屈指の黒人が集まってますからね〜」
吉「そうね〜、アフロヘアをした人とかね。ダンスマンとか」
KC「こういう言い方をすると差し支えがあると思うんですが、吉岡さんは六本木でほぼ定期的に「ソウル・サーチン」っていうイベントをおやりになっていて、僕も何度かゲストスピーカーとして出演させていただいていて。打ち合わせのときとか、オーガナイザーの吉岡さんをシンガーやらスピーカーやらが囲んでやるんですけど、あれ、たまたま目黒駅のそば通りかかった人がみると、オヤジ狩り遭ってるとカンチガイされますよ(笑)」
吉「ハッハッハッハッハ。そんなことはないんじゃないの?」
KC「普通にアフロとかスキンヘッドの人に囲まれてるんですよ(笑)」
吉「ホントのブラックの人たちに囲まれたらそうかもしんないけど……大丈夫ですよ!」
KC「しかも、お酒を召し上がらないんですよ。大体どこに行っても」
吉「GA……アトランタGA……まぁ、ジンジャーエールの略なんですけど」
KC「それもウィルキンソンの辛口」
吉「辛口だね」
KC「決まってるんですよね……これはずっと前からなんですか?」
吉「20年くらいそうですかね……」
KC「高等遊民ですねぇ(笑)」
吉「いやいや、まぁ、そもそもあんまりお酒が強くないっていうのと、大体車で移動してるんで」
KC「吉岡さんはね、女性のみならず、ぼくのようなチンケな男でさえ玄関まで送ってくださいますもんね」
吉「ハハハハハ」
KC「ぼくも半ばそれをあてにして、ガンッガン飲んでますけど(笑)」
吉「いつでもお送りしますよ〜(笑)」
KC「昔から落ち着いた……性分っていうか……穏やかで……乱れてるところを拝見したことがないんですよねぇ。まぁ、部屋の中の片付け、っていう意味ではすごく乱れてるらしいですけどね!」
吉「ハハハハハ。部屋はかなりね〜、物が増えちゃうんですよね。CDとか雑誌とか紙資料とか」
KC「あんまり捨てることがない?」
吉「捨てられないんですよ。松尾さんは結構捨てるっておっしゃってましたよね?」
KC「そうですね……さっきのカセットテープリストを見てると、僕もけっこうインタビューはしているんですけど……」
吉「半分以上は重なってるんじゃないですか?」
KC「そうなんですが……もう見事に……」
吉「テープは捨てちゃったの?」
KC「引越しとか大掃除の度に捨てちゃってるんですよね……」
吉「もっっっったいない!」
KC「テディ・ライリーにインタビューして、翌週グレン・ジョーンズにインタビューしたとき、上から消しちゃったりして……あんまり執着ないんですよ。コレクターじゃないのかな?」
吉「まぁ、僕はコレクターとまでは行かないけども、持っとく系なんですよ」
KC「今になってみるといいなぁと思いますね。吉岡さんはインタビューのときにハンディカメラで撮影するじゃないですか。僕は90年に(ウィリアム・)ザン(・アクアート)のインタビューの時、ワーナーのオフィスで初めてお会いしたんですよね。インタビューの順番が続いていて。その頃まだとても一般的ではなかったんですが、個人でホームビデオで撮影してましたよね」
吉「買ったのが88年かな……?ちょうど発売されて話題になってたときだったんですけど」
KC「早いですねぇ。それ以降は大体インタビューの時は画をおさえていたんですよね?」
吉「まぁ、カセットも予備で録っといてるんですけどね。最近はちょっとうるさいんですけど、インタビューする時、これはプライベート用で外には出ませんって言って許可をもらって、ダメだって言われたらカセットだけって感じでしたね」
KC「ダメって言った代表的な人は誰でした?」
吉「んー、現場でアーティスト本人に聞いたらいいよって言われたんだけど、後から、アメリカのレコード会社の人にこれはダメだって言われて……」
KC「没収?」
吉「いや、消されたの。それがなんと、ボーイズⅡメン」
KC「ほんとに?!なんか……意外だなぁ」
吉「ボーイズⅡメンはあのとき2(人)2(人)に別れてインタビューしてたの。それで、いっしょの画じゃないとダメらしいんだよ」
KC「ほぉ……それはディズニーランドにミッキーが2体あっちゃいけないっていうのと、逆パターンですね!」
吉「ハハハハハハ。かなりわかりにくいけど……そうだね」
KC「すいません(笑)」
吉「なんか、ボーイズⅡメンの2人しか映ってない画が存在しちゃいけないらしいんだよね」
KC「なるほどね、じゃあ、絵柄は必ず4人で、ってことなんでしょうね」
吉「写真だったら必ずそうなんでしょうね。あと、女性アーティストで化粧してないから嫌だって言われたのが1人か2人いたかもしれない……誰だったか忘れちゃったけど。でも、9部9厘大丈夫でしたね」
KC「へ〜」
吉「最近はインタビューする前から聞くようにしていて、ダメって言われる人は何人かいますね」
KC「それはわかりますけどね。おもしろいな〜」
吉「そういうのも溜まっていくと、やっぱり貴重ですよね」
KC「いや、もはや歴史的な資料ですよ、それ」
吉「インタビューって昔はカセットで録ってたけども、その人の表情とか身振り手振りとかがあると、文字起こしのときにすごくわかりやすくて。最初は5人とか4人とかのボーカルグループのインタビューのときに誰が何しゃべってるか、声聞き分けられなくて、そういう便利さで録っていたんだけど、1人のアーティストをインタビューしてるときも画があると、その時の模様がふわっと出てくるから」
KC「日本語訳書いたときに文章の終わりに(笑)があるのとないのとじゃ全然違いますもんね」
吉「そうそう、だから、我ながらいいアイディアだと思いますね」
KC「何かの機会にまとめて見せていただきたいんですけどね〜」
吉「あぁ、いいですよ、いつでも。89年以降はほとんどあるんじゃないかな」
KC「だってこれ、世界的に見ても、放送局と絡んでない個人単位でのインタビューですから、そうとうレアですよ」
吉「そうそう、だって……これ、ナイル・ロジャースとか……ジェームス・ブラウンもあって」
KC「けど、ライナップをみてると、結構お亡くなりなったアーティストも多いですねぇ」
吉「そうですねぇ。ジェームス・ブラウンのこないだ……」
KC「ジェームス・ブラウンといえば、吉岡さんはJBのご自宅に招かれたこともあるんですよね?」
吉「行きましたね〜。95年の1月に」
KC「それはどういう経緯で?」
吉「それはジェームス・ブラウンの奥さんが亡くなって、今年亡くなってしまったドン勝元さんがその葬式に行こうって僕を誘ってくれたんですよ。その情報が入ってから2,3日で行くのを決めて……」
KC「またフットワークの軽い……吉岡さんを夜中2時に飲み誘うと、2時20分には到着してるっていう」
吉「すぐ飛んでっちゃうっていう(笑)。それで、奥さんの葬式に出たんですよ」
KC「ジョージア?」
吉「お葬式はね。で、自宅がGA。川を渡って15分くらいのとこにサウスカロライナの自宅があるっていう……」
KC「JBはその2つをよく行き来してたから「ジョージ・アライナ」とかっていう歌も歌ってるし」
吉「ですね。ジョージア育ちみたいな意識があったらしいんで」
KC「まぁ、南部人ってことですかね」
吉「あの辺がホームだっていう感じですね。で、そのお葬式に出て、その近くのホテルで晩餐がふるまわれて、そのときに勝元さんの所にJBがやってきて、「明日うちに来い」と。それで、翌日の10時くらいにダニー・レイがホテルに迎えに来て、彼の車で行ったんですよ」
KC「いいな〜ダニー・レイ。まぁ、お家を出たときから遠足、って言葉がありますけども、車に乗ったときからJBの家の廊下に一歩足を踏み入れたのに近いですよね。だって、JBの家に行くよりダニー・レイの車に乗る方が、ある意味レアかもしれませんよ?」
吉「アッハッハッハ。でも、ダニー・レイは本当に良い人ですよね」
KC「ぼくもダニー・レイは91,2年くらいかなぁ……ブラザー・コーンさんといっしょに横浜アリーナに行って、楽屋で写真を撮りましたけども、沢山並んでる人がいて、皆、毎回JBが最後の来日だと思っちゃうんですけど、皆に丁寧に接してくれるんですよね、あの人は。あれもショーマンシップの一つの形なんでしょうね」
吉「そうなんですよ。で、そのジェームス・ブラウンの家に着きまして、まず扉にびっくりするんですよ……あれは扉っていうか、まぁ、開けてるんですけど、道から玄関に入る入り口の所に、ドーンとポールが立っていて、そこに<ジェームス・ブラウン・ブルバード>って書いてあるんですよ!」
KC「JBの名前のついた通りってアトランタに結構ありますけどね」
吉「で、クネクネした道を通って……」
KC「それでブルバードなんだ!彼が言うところの……」
吉「車がすれ違えないくらい狭い道なんですけど、母屋に通じる道、と。右側に池とかがあって、ずーっと進んでいくと、母屋に着くました。で、母屋の左側に車庫があるんですが、そこにロールスロイスだベンツだベントレーだ、でっかい車ずらーっと」
KC「世界の名車ショーだ(笑)」
吉「それが10台くらいあって、僕はダニー・レイに「パーティでもやってるのか?」って聞いたんですよ」
KC「うんうん」
吉「したらダニー・レイが「これは全てミスター・ブラウンの車だ」って……」
KC「そういえば、JB周りの人たちって、みんな<ミスター・ブラウン>って言いますよね」
吉「彼自身もダニー・レイに<ミスター・ダニー・レイ>とか、女性にはミスとか、敬称をつけてましたね。ミスター・ブラウンはすごく規律に厳しくて、ステージで間違えると毎回5ドルの罰金とか……」
KC「意外と効果的だったらしいですけどね」
吉「それから時間に遅れちゃいけないし……ほんっとにバンドメンバーやスタッフに対する躾が厳しいんですよ。なのでミスター・ブラウンも、メンバーに対して敬意を払っていたんですよね。ミスターにしてもミスにしても。誰も<JB>なんて言わない」
KC「言えないですよね。ぼくも何回かインタビューしましたけども、そのたびに弁護士の人に「知ってるだろうけど、彼に話しかけるときは<ミスター・ブラウン>と言ってくれ」と言われました」
吉「はぁ〜、なるほどね。だからぼくも、目の前に行くと<ミスター・ブラウン>ってなっちゃうんですよね」
KC「なりますよね、自然と」
吉「<JB>とも言えないし<ジェームス>とも呼べないし……ルーサーだったら「ハイ!ルーサー」って言えたかもしれない」
KC「もっと言えばマーヴィン・ゲイも「ハイ!マーヴィン」でいけますよね」
吉「レイ・チャールズも意外とそういうとこは気軽にいけましたよね」
KC「映画のタイトルが『レイ』ってくらいですもんね」
吉「でも、ミスター・ブラウンはやっぱり<ミスター・ブラウン>だよなぁ……」
KC「この世界で<プレジデント>は彼ひとりだってことなんでしょうね」
吉「お〜、なるほど。その通りですね。ファンキー・プレジデント!」
KC「いやぁ…………」
吉「またちょっと逸れちゃいましたね」


KC「吉岡さんのこういう“語り”を生でお聴きなりたい方は、吉岡さんが音楽とおしゃべりのイベントをやってらっしゃるんで、そちらの方にぜひ足を運んでみていただきたいですね」
吉「そうですね」
KC「僕も大体はそこにいますので」
吉「ぜひぜひ」
KC「ソウルサーチンっていうイベントですよね」
吉「そうです」
KC「まぁ、詳しい情報は吉岡さんのホームページにアクセスして頂きたいと思います」


吉「その、ソウルサーチンからのスピンオフ企画で、木下航志くんっていう、鹿児島出身の高校生で18歳のシンガーソングライターがいるんですが、彼のライブがあるんですけど、その2部でバックバンドをうちのソウルサーチンのハウスバンドであるハウスサーチャーがやると。ソウルのカバーばっかりやるんで興味のある方は、ぜひ」
KC「木下航志くんっていえば、日本のスティーヴィー・ワンダーとの呼び声が高いんですよね。まぁ、彼自身が目に障害を持っているということもあって、よくなぞらえられる事も多いんですけど……ちょうど、示し合わせたわけじゃないんですけど、こういうメールをいただいております。スティーヴィーとは関係ないのですが、スティーヴィーと同じ質を感じさせる木下航志くんという高校生のアーティストがいて」
吉「うんうん」
KC「今度ライブがあるので行こうと思ってます。ってことなんですけども」
吉「すばらしい!品川教会でやるんでぜひ。情報はソウルサーチン・ドットコムまで」


KC「吉岡さんは、肩書きでいうと“ソウルサーチャー”ですもんね」
吉「あえていうとね。日々ソウルを捜し求めているんですよ。だから“ソウルサーチャー”」
KC「吉岡さんのお仲間の方は、僕もその一人なんですが、“ソウルメイト”」
吉「そういうことです。“ソウルメイト”KC松尾。みんな“ソウルメイト”ですよ〜」
KC「じゃあ、そんな吉岡さんのいちばん若い“ソウルメイト”である木下くんの曲を聴いてみましょうか」
吉「またスティーヴィーつながりですね、木下航志くんで、「RIBBON IN THE SKY」」